「β2刺激薬の作用機序は?」
「β2刺激薬はどのような疾患に対して用いられているの?」
このような疑問を持っている人は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、β2刺激薬が気管支を拡張するメカニズムについて徹底解説。
β2刺激薬の適応疾患である気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患や、吸入する際のポイントについても紹介します。
本記事を読めば、β2刺激薬や気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患の理解を深められます。
興味がある人はぜひ最後までご覧ください。
アドレナリンとは?
アドレナリンとは、交感神経系の刺激を伝える物質(神経伝達物質)です。
交感神経系は主に、緊張・興奮状態において活発化しています。
アドレナリンは、「アドレナリン受容体」という部位に結合することで作用を発揮します。
アドレナリン受容体には5つのサブタイプがあり、それぞれの働きは以下の通りです。
α1受容体 | 血管収縮、気管支収縮、子宮収縮、腸管弛緩 |
---|---|
α2受容体 | 神経末端における神経伝達物質の遊離抑制 |
β1受容体 | 心拍数増加、心収縮力増加、腸管弛緩 |
β2受容体 | 気管支拡張、血管弛緩、子宮弛緩 |
β3受容体 | 脂肪分解促進、心筋収縮抑制、血管弛緩 |
このうち、本記事ではβ2受容体における気管支拡張作用について注目していきます。
β2刺激薬が気管支を拡張する作用機序
β2刺激薬とは、その名の通りβ2受容体を刺激する働きを持った薬剤です。
その刺激により、「アデニル酸シクラーゼ」という物質が活性化します。
アデニル酸シクラーゼの作用は、「ATP→cAMP」という化学反応を促進することです。
そのため、アデニル酸シクラーゼが活性化すると、産生されるcAMPが増加します。
そして、cAMPには空気の通り道である気管支を拡張する作用があります。
以上のメカニズムで、β2刺激薬は気管支を拡張しているのです。
β2刺激薬が用いられる疾患
先ほど解説したように、β2刺激薬は気管支拡張作用を持つ薬剤です。
そのため、気管支が狭くなっている疾患に対して用いられています。
具体的には、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)といった呼吸器疾患に対して使用されています。
これらの疾患はいずれも患者数が多く、身近な存在とも言えるような疾患です。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
気管支喘息
気管支喘息について、以下の観点から解説していきます。
- 病態
- 危険因子と発作のトリガー
- 症状
それぞれについて見ていきましょう。
①病態
気管支喘息の基本的な病態は、空気の通り道である気道に発生している慢性的な炎症です。
慢性炎症の発症には、様々な危険因子が関与しています。
気道に発生した慢性炎症により、以下のような変化が引き起こされます。
- 気道過敏性亢進(気道が刺激に反応しやすくなる)
- 気道リモデリング(気道を構成する組織構造の変化)
- 気道狭窄
これらの変化は、症状がない時にも常に存在しています。
そして、気道狭窄が進行したところに何らかの発作のトリガーが加わると、さらなる急激な気道狭窄が起こります。
その結果として、様々な喘息症状が出現するのです。
なお、発作のトリガーにより発生した急激な気道狭窄は可逆性です。
しかし、慢性炎症により引き起こされている元々の気道狭窄には、可逆性があまりありません。
②危険因子と発作のトリガー
気管支喘息の慢性炎症を引き起こす危険因子として、主に以下が挙げられます。
個体因子 | ・遺伝的要因 ・アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質) ・性別(小児では男児に多く、成人では女性に多い) ・肥満 ・出生時低体重 |
---|---|
環境因子 | ・アレルゲン(ダニやカビ、ハウスダスト、ペットなど) ・喫煙(能動喫煙、受動喫煙ともに) ・呼吸器感染症(特にウイルス性のもの) ・大気汚染(二酸化窒素や二酸化硫黄、黄砂、PM2.5など) ・薬物 |
また、急激な気道狭窄を引き起こす発作のトリガーとしては以下が挙げられます。
- 呼吸器感染症
- アレルゲン
- 運動とそれに伴う過換気
- 気温・気圧の変化
- アルコール
- 薬物(NSAIDsやβ遮断薬など)
- 喫煙
- 疲労やストレス
- 時間帯(夜間や明け方)
- 月経
これらのトリガーを全て回避するのは現実的ではありませんが、注意すべきこととして覚えておきましょう。
症状
気管支喘息の主な症状は以下の通りです。
- 反復してみられる咳
- 喘鳴(息を吐く時に「ゼェー」「ヒュー」という音が聞こえる)
- 呼吸困難(最悪の場合には窒息し命に関わる)
これらの症状はいずれも、急激な気道狭窄により生じています。
また、喘鳴や呼吸困難を伴わない咳が長期間続く病態を、咳喘息と呼びます。
咳喘息は通常の気管支喘息に移行することもあるため、注意が必要です。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患について、以下の観点から解説していきます。
- 病態
- 危険因子
- 症状
- 急性増悪
それぞれについて見ていきましょう。
①病態
慢性閉塞性肺疾患では、危険因子の影響により気道や肺に炎症が発生します。
気道に生じた炎症は分泌物の貯留や内腔壁の線維化を惹起し、肺に生じた炎症は肺胞(肺を構成する袋)を破壊してしまいます。
その結果として、気道の狭窄やガス交換障害(肺胞における酸素と二酸化炭素の交換障害)が引き起こされてしまうのです。
②危険因子
慢性閉塞性肺疾患の危険因子として、主に以下が挙げられます。
最重要 | 重要 | 可能性あり | |
---|---|---|---|
外因性因子 | タバコ煙 | 大気汚染、受動喫煙、職業性の粉塵や化学物質への曝露 | 小児期の呼吸器感染症、妊娠時の母体喫煙 |
内因性因子 | α1-アンチトリプシン欠乏症 (日本人では稀) | 遺伝子変異、気道過敏性、慢性閉塞性肺疾患や気管支喘息の家族歴 |
以上のうち、注目したい因子がタバコ煙です。
慢性閉塞性肺疾患の患者さんのうち、約90%に喫煙歴があると報告されています。
また、喫煙開始年齢が若ければ若いほど、慢性閉塞性肺疾患に罹患しやすいことがわかっています。
③症状
慢性閉塞性肺疾患でみられる主な症状は以下の通りです。
- 慢性の咳
- 喀痰
- 労作時(運動時)呼吸困難
病態が進行すると、体重減少やチアノーゼ(皮膚や唇が青紫色になる)、下肢のむくみといった症状が生じるケースもあります。
④急性増悪
慢性閉塞性肺疾患において怖いのが、急激に症状が悪化する病態、急性増悪です。
急性増悪の主な原因は呼吸器感染症であり、主要な原因菌・ウイルスとして以下が挙げられます。
- インフルエンザ菌
- モラクセラ・カタラーリス
- 肺炎球菌
- インフルエンザウイルス
急性増悪はQOL(生活の質)や呼吸機能を大きく低下させ、生命予後を悪化させてしまうため、注意しなければなりません。
対策として、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が行われています。
β2刺激薬の種類と使い分け
β2刺激薬には、長時間作用性β2刺激薬(LABA)と、短時間作用性β2刺激薬(SABA)の2種類があります。
それぞれには以下のような薬剤が該当します。
長時間作用性β2刺激薬 | サルメテロール、インダカテロール |
---|---|
短時間作用性β2刺激薬 | サルブタモール、プロカテロール |
長時間作用性β2刺激薬は、効果が12時間以上持続します。
長期管理薬として、症状をコントロールするために用いられます。
一方、短時間作用性β2刺激薬の効果持続時間は約5~15分です。
発作時の急激な症状を抑えるために用いられます。
β2刺激薬を吸入する際のポイント
β2刺激薬は、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に対して、高い治療効果を発揮できる薬剤です。
しかし、せっかくの薬剤もうまく服用できなければ、十分な効果を得ることはできません。
β2刺激薬を吸入する際の基本的な流れは以下の通りです。
- カチッと音が鳴るまでカバーをしっかり開ける
- カウンターの数字が1減ったか確認する
- 吸入口に吹きかけないよう気を付けつつ、息を吐きだす
- 薬剤が漏れないように吸入口全体を加えて深く吸い込む
- 吸入口から口を離し3秒以上息を止める
- 忘れずにカバーを閉じる
なお、吸入する際には予め服用方法の説明書きを熟読してください。
また、気管支喘息に対してβ2刺激薬を用いる場合は、必ず「ステロイド」という薬剤と併用して吸入します。
そこで、忘れてはならないのが吸入後のうがいです。
なぜなら、ステロイドが口の中や喉に残っていると、副作用により口内炎ができたり声がかすれてしまったりするからです。
面倒に感じることもあるかもしれませんが、必ずうがいをするようにしてください。
まとめ:β2刺激薬で気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患を治療しよう
β2刺激薬とは、空気の通り道である気管支を拡張させる薬剤です。
気道が狭窄する疾患である、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患に対して用いられています。
β2刺激薬の服薬方法は主に吸入であり、十分な治療効果を得るためには正しい吸入方法を理解する必要があります。
本記事で吸入する際のポイントをしっかり理解し、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患を治療しましょう。