バルプロ酸が効果を発揮するてんかんについて徹底解説｜片頭痛や躁病も紹介

適用部位

脳

薬効分類

バルプロ酸

ニューロンが興奮するメカニズム

私たちの脳は、「ニューロン」と呼ばれる神経細胞が集積して構成されています。
ニューロンには様々な物質が働きかけており、その結果として他のニューロンに刺激が伝達されています。

ニューロンに働きかける物質の代表例は、ナトリウムイオンやカルシウムイオン、塩化物イオンなどです。
このうち、塩化物イオンはニューロンの興奮を抑制させる働きを持っています。

ここで紹介したい物質が、「神経伝達物質」と呼ばれている「GABA」です。
詳細なメカニズムは省きますが、GABAには、塩化物イオンのニューロンへの流入を促進する働きがあります。
すなわち、ニューロンの興奮を抑制させる働きを持つということです。

バルプロ酸が抗てんかん効果を持つ理由

てんかんとは、大脳皮質を構成しているニューロンに異常な興奮が発生し、けいれんなどの症状が生じる疾患です。
大脳皮質とは、脳の領域の一つであり、知覚・思考・記憶などの様々な機能を担っています。

そして、バルプロ酸にはGABA濃度を上昇させる作用があります。
その結果、ニューロンの興奮が抑制されるので、抗てんかん効果を持つというわけです。

てんかんの分類

てんかんは、ニューロンが興奮する部位や原因疾患の有無により分類されます。
それぞれの分類方法について見ていきましょう。

発作型分類

発作型分類とは、ニューロンの異常興奮がどこで発生しているのかにより分類する方法です。
具体的には、以下の2タイプに分けられます。

部分発作	ニューロンの異常興奮が局所的に起こる
全般発作	ニューロンの異常興奮が広範囲で同時に始まる

このうち、部分発作は意識障害の有無により、単純部分発作と複雑部分発作に分けられます。

単純部分発作(意識障害なし)	・顔や手、足の一部がけいれんする・身体の一部がピリピリする
複雑部分発作(意識障害あり)	・一点凝視・動作停止・自動症(口をもぐもぐさせる、ボタンや衣服を意味なくいじる、徘徊するなど)

また、全般発作では以下のような発作がみられます。

欠神発作	・突然に意識低下するが、数秒後に回復する・過呼吸により誘発されやすい
ミオクロニー発作	・突然、瞬間的に筋肉の収縮が起こる・光刺激により誘発されやすい
強直間代発作	・全身の筋肉を硬直させた状態(強直相)から、四肢の屈曲・伸展を繰り返す状態(間代相)へ移行する・たいてい5分以内に収まり、その後睡眠状態になりやすい

原因疾患の有無による分類

てんかんは、原因疾患の有無によっても分類されます。
特定の原因が見当たらないものが「特発性てんかん」であり、何らかの原因があるものが「症候性てんかん」です。

症候性てんかんの原因として、具体的には以下が挙げられます。

胎児仮死
先天奇形
頭部外傷
脳炎
髄膜炎
脳血管障害
脳腫瘍
代謝異常症
認知症

てんかんにおいては、以上のような原因を有する症候性が、特発性よりも予後(疾患の経過)が悪いと報告されています。

代表的なてんかん

代表的なてんかんは、発作型分類と原因疾患の有無による分類から、以下のようにカテゴライズされます。

	部分てんかん	全般てんかん
特発性	・ローランドてんかん・小児後頭葉てんかん	・小児欠神てんかん・若年ミオクロニーてんかん・覚醒時大発作てんかん・若年欠神てんかん
症候性	・側頭葉てんかん・前頭葉てんかん・後頭葉てんかん・頭頂葉てんかん	・West症候群(点頭てんかん) ・Lennox-Gastaut症候群・Dravet症候群・ミオクロニー欠神てんかん・進行性ミオクローヌスてんかん

このうち、バルプロ酸は全般てんかんに対して用いられます。
代表的な全般てんかんについて見ていきましょう。

①小児欠神てんかん

小児欠伸てんかんは、4～10歳の女の子によく見られるてんかんです。
特に、5～7歳ごろに症状がピークを迎えます。

本疾患の特徴は、欠神発作が1日に何十回も繰り返されることです。
発作中は突然動きが止まり、10秒ほどぼんやりした状態になりますが、その後すぐに元に戻ります。
治療にはバルプロ酸がよく効き、症状が完全に抑えられることも多いです。

②若年ミオクロニーてんかん

若年ミオクロニーてんかんは、12～18歳の思春期に発症しやすいてんかんです。
本疾患では、朝起きた後数時間の間に「ミオクロニー発作」が起こります。
また、ほとんどの患者さんが経過中に強直間代発作を起こします。

強直間代発作は、非常に目立つため発見されやすいです。
しかし、ミオクロニー発作は短時間であり意識障害もないため、本人や家族が気づかないケースが少なくありません。
たとえば、「朝食時に箸や食器をよく落とす」といった小さな異常が、発作のサインである場合もあります。

③West症候群(点頭てんかん)

West症候群は、生後4～7ヵ月ごろの乳児によく見られるてんかんです。
原因として考えられるのは、出産時のトラブルや先天的な脳の異常、代謝の問題などです。

本疾患では、点頭発作と呼ばれる特徴的な発作が起こります。
具体的には、突然頭をガクンと前に倒し手足をピクッと動かす動作を、数秒おきに何度も繰り返します。
また、発達の遅れや、すでにできるようになっていた動作や言葉を忘れてしまう「発達の後退」が見られることも少なくありません。

④Lennox-Gastaut症候群

Lennox-Gastaut症候群は、1～8歳の子どもによく起こるてんかんです。
脳に何らかの障害がある場合に発症するケースが多いほか、West症候群が進行して本疾患に移行する場合もあります。

本疾患の特徴は、欠神発作やミオクロニー発作をはじめとする、様々な種類のてんかん発作が見られることです。
発作の影響で突然転倒することも多く、顔や頭を打ってケガをするリスクが高いため、安全対策も必要となります。

⑤Dravet症候群

Dravet症候群は、生後1年以内の乳児に発症するてんかんです。
原因として、「チャネル遺伝子」と呼ばれる遺伝子の異常が考えられています。

本疾患の特徴的な発作は、発熱時や入浴時に起こりやすい強直間代発作です。
極めて治療が難しく、発作を完全に抑えるのが難しいため、乳幼児期に約10%の患児が命を落とすと報告されています。

てんかん治療のポイント

てんかん治療の目的は、発作を抑制し続けることです。
そのためには、発作が出ていない時期であっても、バルプロ酸をはじめとする抗てんかん薬を服用し続ける必要があります。
具体的には、少なくとも2年の長期服用が基本です。

抗てんかん薬の服用が中断されるケースとして多いのが、てんかん患者の妊娠です。
抗てんかん薬には、先天奇形のリスクを高める副作用があるため、妊娠中に自己判断で休薬してしまう場合があります。

しかし、抗てんかん薬を中断すると、てんかん発作のリスクが上昇します。
発作は胎児を大きな危険にさらしてしまうので、妊娠中であっても抗てんかん薬は継続しなければなりません。

バルプロ酸が用いられるてんかん以外の疾患

抗てんかん薬として用いられることが多いバルプロ酸ですが、片頭痛や躁病といった疾患に対しても使用されています。
これらの疾患はいずれも、ニューロンの異常興奮が関与していると考えられています。
それぞれの疾患について見ていきましょう。

①片頭痛

片頭痛は、20〜40歳代の女性に起こりやすい頭痛です。
こめかみのあたりから側頭部にかけて、ズキンズキンと脈打つような痛みが生じます。
このような頭痛発作が、1ヵ月に約1〜5回繰り返されるケースが多いです。

片頭痛に対する治療法は、発作時に行うものと非発作時に行うものに分けられます。
バルプロ酸はこのうち、非発作時に行う予防薬として用いられる場合があります。

②躁病

躁病とは、気分が異常に高まり、活動的になりすぎる精神状態を指します。
主な症状は以下の通りです。

気分が高揚しすぎて自信過剰になる
休まずに動き回る
早口でたくさん話す
衝動的に行動する
大金を使いすぎる

以上のような状態が続くと、周囲との関係に悪影響を及ぼしたり、社会生活に支障をきたしたりすることが考えられます。

まとめ：バルプロ酸でてんかん・片頭痛・躁病を治療しよう

てんかんは、ニューロンの異常興奮により様々な症状が生じる疾患です。
発作の種類により用いられる抗てんかん薬が異なりますが、バルプロ酸は全般てんかんに対して使用されています。

バルプロ酸はてんかんだけでなく、片頭痛や躁病に対しても用いられています。
本記事で紹介した疾患を、バルプロ酸で治療していきましょう。